マンション階段の衝動:息もできない30秒
森川大輔 39歳 横浜・みなとみらい近くのタワーマンション14階住人 管理職。離婚歴あり。普段は冷静で、部下からは「鉄の部長」と呼ばれている。 でも夜の階段だけは、別人になる。
あの夜は金曜の23時58分。 残業で終電を逃し、タクシーで帰宅したのは0時12分。 エレベーターが「点検中」の赤いテープで封鎖されていた。 仕方なく非常階段へ。 14階まで上るしかない。
階段室の照明は薄暗く、非常灯の緑が不気味に反射している。 靴音がコンクリートに反響するたび、自分の存在がやけに大きく感じる。
3階分の踊り場を過ぎたところで、彼女がいた。
黒のタイトスカート。 白いブラウス。 肩にかけたコートが片方だけずり落ちている。 ヒールがカツカツと鳴りながら、ゆっくり上っている。 明らかに疲れている。 酔っているのかもしれない。 手すりに体重を預け、首を傾げて息をついている。
距離は7段。 あと7段で追いつく。
心臓が喉に詰まるような音を立て始めた。 自分の呼吸がうるさい。 彼女に聞こえているのではないか。
彼女は気づいていない。 まだ。
私は足音を殺した。 靴底をそろりと浮かせて、階段を一段ずつ這うように進む。 6段。 5段。 彼女の背中がすぐそこ。 シャンプーの匂いと、微かにアルコールの香りが混じる。 首筋に浮いた汗の粒が、非常灯に光って見えた。
4段。
もう後戻りできない距離になった瞬間、 私は決めた。
彼女の口を左手で塞ぎ、 右手で腰をがっちり掴んで引き寄せた。
「っ!」
彼女の体が一瞬硬直し、次の瞬間全力で暴れた。 しかし私はすでに彼女の背中に体重をかけ、階段の踊り場に押し倒していた。 コンクリートの冷たさが彼女の膝と手のひらに当たる。 彼女のヒールがガリッと階段を引っ掻く音がやけに大きく響く。
「静かにしろ。声出したら終わりだぞ」
耳元で囁く声が、自分でも驚くほど低く震えていた。 彼女の息が私の掌に熱く当たる。 必死に抵抗する唇の動きが、手のひらに直接伝わってくる。
彼女の腕を背中でねじり上げ、 スカートを乱暴にたくし上げる。 ストッキングがビリッと裂ける音。 その瞬間、彼女の体がびくんと跳ねた。 恐怖が全身を硬直させているのが分かる。
階段室の扉は閉まっている。 でもいつ誰かが開けるか分からない。 上の階から足音が聞こえたら終わりだ。 下の階から誰かが上がってきたら終わりだ。 インターホンが鳴ったら、警備員が来たら、管理人が巡回に来たら――
その「いつか」が頭の中で何度もフラッシュするたび、 下半身が逆に熱くなる。
彼女の太ももを強引に開かせ、 下着をずらす。 指先が濡れていることに気づいた瞬間、 彼女の体が羞恥でさらに震えた。
「…嫌…っ、やめて…」
か細い声が漏れる。 私は彼女の髪を掴んで顔を床に押しつけ、 声を殺させる。
「聞こえるだろ。誰か来たらお前が恥ずかしいだけだ」
そう言った瞬間、彼女の抵抗が一瞬弱まった。 その隙に、私は一気に貫いた。
彼女の体が弓なりに反る。 喉の奥から押し殺した嗚咽が漏れる。 爪が私の腕に食い込み、血が滲む。 でもその痛みさえ、今は快感だった。
動きはゆっくり、でも深く。 階段の段差が彼女の背中に食い込むたび、小さな衝撃音が響く。 コンクリートの冷たさと、私の熱が彼女の中で混じり合う。
上の階から、かすかにドアの開く音がした気がした。
私は動きを止めた。 彼女の口を再び塞ぐ。 二人とも息を殺す。 心臓の音が耳にうるさいほど大きくなる。
5秒。 10秒。 20秒。
何も起きない。
その静寂が、逆に興奮を爆発させた。
再び腰を動かし始める。 今度は速く、強く。 彼女の体が階段の段に打ちつけられるたび、 くぐもった喘ぎが私の掌の下で震える。
「…んっ、…っ、…や…」
彼女の声が、次第に別の色を帯びていく。 恐怖と、屈辱と、でもどうしようもない快感が混ざった、 わけのわからない音。
私は限界だった。
最後の数回を、思い切り深く突き上げて、 彼女の中に全てを吐き出した。
熱い脈動が何度も続き、 彼女の体がそのたびに小さく跳ねる。
終わった瞬間、 階段室に響くのは、 私と彼女の荒い呼吸だけだった。
彼女は動かない。 私はゆっくり体を離し、 自分のズボンを整える。 彼女の乱れたスカートを、そっと元に戻した。 まるで何事もなかったかのように。
立ち上がる彼女の背中を見ながら、 私は14階への階段を上り始めた。
後ろから、かすかに聞こえた。 彼女の小さな嗚咽。
でも、振り返らなかった。
今でも、夜中に階段を使うたび、 あの30秒の「誰かが来るかもしれない」という恐怖と、 その恐怖がもたらした異常な快楽が、 下腹部を熱くさせる。
次は、もっと長い時間。 もっと高い階で。 もっと大きな音を我慢させながら。
そんな考えが頭をよぎるたび、 自分自身が怖くなる。
でも、同時に、 たまらなく興奮する。

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